ドキュメントに何を書くか?(What)
ドキュメントとは「ある情報を、ある対象に伝える」ための手段です.ドキュメントを書くにあたって事前に
- 「誰に」対して
- 「何を」伝えるか
を明確化し,その目的に応じて構成や表現を設計することが重要です.
Example 1 : ドキュメント種類別の読み手と目的整理表
ドキュメント種類 | 誰に | 何を |
---|---|---|
企画書 | 経営層・チームマネジャー・開発メンバー | PJの目的・スコープ・予算・スケジュール |
要件定義書 | エンジニア | システムの機能要件・非機能要件 |
基本設計書 | エンジニア | システムの動作仕様・インターフェース仕様 |
詳細設計 | エンジニア | ソフトウェアの内部構造・モジュール感のインターフェース・データ構造 |
テスト仕様書 | プロダクトマネジャー・エンジニア | テスト項目・テストデータ・テスト結果 |
ユーザーマニュアル | ユーザー | 機能の説明・利用目的・操作方法 |
管理・保守マニュアル | システム管理者 | 管理や保守に関する機能の説明・利用目的・操作方法 |
リリースノート | ユーザー・システム管理者 | プロダクトのアップデートに伴う変更点 |
読み手の定義
ルール
「誰に」対してを特定する際,以下の3つを明確化することが有用です:
- 読み手の目的・ニーズ
- 読み手の知識レベル
- 読み手の立場
説明
目的が違えば、必要な情報・深さ・順序が変わる
- 意思決定者 → 意思決定や承認に足る根拠がほしい → 結論とインパクト重視
- 現場担当者 → どう使うか/どう実装するかの具体的な手順を知りたい → 詳細手順や実装方法が重要
知識レベルが違えば 説明の粒度・用語の選び方・例の使い方が変わる
- 初心者 → 用語の定義や背景から丁寧に
- 専門家 → 論点にフォーカスし冗長さを排除
同じ事実でも、立場によって関心ポイントが異なる
- 営業 → 顧客影響やKPIに注目
- エンジニア → 技術的妥当性や仕組みが重要
例: ユーザーマニュアルと開発者マニュアルのアウトラインの差異
種類 | アウトライン構成方針 | 例 |
---|---|---|
ユーザーマニュアル | ユーザーが操作する順番 | 初期設定 → ログイン → 基本操作 → 応用操作 → トラブル対応 |
開発者マニュアル | 開発者が開発する順番 | 環境構築 → モジュール設計 → API定義 → データ構造 → エラーハンドリング |
アンチパターンと改善例
どのようにドキュメントを書くか?(How)
良いドキュメントを書くためには、次の3点を押さえる必要があります:
- Effectiveness; 必要な情報を正しく伝えられる, 合目的的であること
- Efficiency: 効率よく内容が理解できる, readability
- Satisfaction: 読み手に対する配慮があること
Effectiveness
説明
- 書き表された情報が読み手に一意に伝わること
- 書き表された情報がドキュメントの目的と合致していること
アクション
Efficiency
説明
- 効率よく内容が理解できること
- 読み手は流し読みする傾向があるので,流し読みでも情報が伝わるように構成立てること
アクション
-
- ドキュメントを書く前に事前にアウトライン設計(どこに何を書くのか)
- 文章ブロックに対して,書かれている内容を端的に表す見出しを付ける
- one heading, one message
Satisfaction
説明
- 読み手が「読んでよかった」「わかりやすかった」と感じられること
- ストレスなく読める体験が提供されていること
アクション
わかりやすい文の書き方
文を書き始めるのはアウトライン設計後
- 文章はすぐに書き始めるのではなく,まず「構造」=アウトラインを先に設計する
わかりやすい文を書くにあたって,次の4点を抑える必要があります
- 係り受けを明確にする
- 並列関係を明確にする
- 順序関係を明確にする
- 「の」は一つの文に2つまでに留める
係り受けを明確にする
説明
- 誤解を招く文の原因の一つが,係り受けの曖昧さ
- 係り受けはできる限り近い位置に配置するべき
例
- ❌ 簡単なチャットアプリの作り方
- 👍 チャットアプリの簡単な作り方
並列関係を明確にする
説明
- 並列する要素(AとB、~や~など)は、文法的・意味的に対等な構造で書く必要がある
- 並列構造が乱れると、何が並列なのか、読み手が混乱する
例
- ❌ このツールは、設定の保存、読み込み、そしてファイルの圧縮ができます
- 👍 このツールは、設定の保存・読み込み、ファイルの圧縮ができます
順序関係を明確にする
説明
- 複数の出来事や手順がある場合は、どの順で発生・実行されるかを明確にすることが重要
- 順序が不明瞭だと、因果関係や手順が誤解されやすくなる
例
- ❌ 入力が完了したら、ファイルを保存し、名前を入力してください
- 👍 入力が完了したら、名前を入力し、その後でファイルを保存してください
「の」は一つの文に2つまでに留める
説明
- 「の」を多用すると、文の構造が複雑になり、意味があいまいになる
- そのため、一文に「の」は2つまでに抑えるのが、読みやすさの目安。
例
- ❌ データ処理の高速化のためのアルゴリズムの最適化手法の調査
- 👍 データ処理を高速化するための、アルゴリズム最適化手法の調査
- 👍 アルゴリズム最適化手法について、データ処理を高速化する観点から調査した
アンチパターンと発生原因
-
- headingsとkey takeawaysだけ読んでみたとき,目が止まってしまう or 順番が飛んでしまう
-
- ユーザーマニュアルは読者の立場に立った指示やガイドを提供するべき
Appendix: パラグラフと段落の違い
「パラグラフ」と「段落」は、日常的には同じ意味で使われることも多いですが、ドキュメント作成の文脈では以下のような差異が有ります:
用語 | 視点 | 意味 |
---|---|---|
段落 | 見た目 | 改行による文章の区切り 何を1段落にまとめるかの自由度が高い |
パラグラフ | 意味 | 1つの主張を持った論理的な文の集まり 1 paragraph 1 topic |
Pragraphの構成
1つのパラグラフは、原則として以下のような構造で成り立っています:
構成要素 | 説明 |
---|---|
topic sentence | パラグラフの最初に置かれ、その段落で述べたい中心的な主張やポイントを示す |
support sentence | 「なぜそう言えるのか?」「どんな意味があるのか?」を展開する |