ある慣性系で2つの平行な軌道

線形代数
physics
Author

Ryo Nakagami

Published

2025-07-01

Modified

2025-07-02

慣性の法則と慣性系

Definition 1 慣性の法則

  • 質点が何の力も受けないとき,その質点は静止たままか,一定の速度で運動する
  • 運動の第一法則とも呼ぶ

慣性の法則が成り立つ座標系を慣性系といいます.ある座標系が慣性系であれば,それに対して静止しているか等速直線運動をする座標系はすべて慣性系です.

Exercise

Exercise 1

非相対論的(=ニュートン力学で十分に正確に記述できる)な一定の速さで運動する2つの物体の軌道を,ある慣性系で観測したところ平行だった.

  1. 別の関係性を選んで,その系では2つの軌道が互いに交差するというのはあり得るか?
  2. (a)を満たす座標系があったとして,適当な初期条件のもとに物体が動き始めて,それらが同時に交差する点へ到達することはあり得るか?
Solution (a)

もとの座標系 \(K\) で,2つの物体の速度ベクトルを \(\pmb{v}_1, \pmb{v}_2\) とする.これらは仮定より平行なので

\[ \pmb{v}_1\times\pmb{v}_2 = \pmb{0} \]

\(K\) に対して,速度 \(\pmb v_0\) で動いている座標系 \(K^\prime\) で,2つの軌道が互いに交差するならば

\[ \begin{align} (\pmb v_1 - \pmb v_0) \times (\pmb v_2 - \pmb v_0) &= (\pmb v_1 - \pmb v_2) \times \pmb v_0\\ &\neq \pmb{0} \end{align} \]

この条件が満たされるには

  • 2つの \(\pmb{v}_1, \pmb{v}_2\) の速度の大きさが異なっている
  • 2つの \(\pmb{v}_1, \pmb{v}_2\) の速度差ベクトルが \(\pmb{v}_0\) と平行ではない

が必要となります.

Solution (b)

物体1の \(t=0\) における位置を座標系 \(K\) の原点にとると,時刻 \(t\) における2つの物体の位置ベクトルは,\(t=0\) における2つの物体の相対位置ベクトルを \(\pmb{d}\) とすると

\[ \begin{align} \pmb{r}_1(t) &= \pmb{v}_1t\\ \pmb{r}_2(t) &= \pmb{v}_2t + \pmb{d} \end{align} \]

これを座標 \(K^\prime\) での位置ベクトルになおすと

\[ \begin{align} \pmb{r}_1^\prime(t) &= (\pmb{v}_1 - \pmb{v}_0)t\\ \pmb{r}_2^\prime(t) &= (\pmb{v}_2 - \pmb{v}_0)t + \pmb{d} \end{align} \]

もし2つの物体が時刻 \(t_0\) にある点で出会うならば

\[ \pmb{r}_1^\prime(t_0) = \pmb{r}_2^\prime(t_0) \]

つまり,

\[ (\pmb{v}_1 - \pmb{v}_2) t_0 = \pmb{d} \]

この条件が満たされるには

  • \(\pmb{d}\) が2つの物体の軌道に平行であればよい

つまり,物体2の出発地点が物体1の直線経路上にあれば良いことになります.言い換えると,座標系 \(K^\prime\) で観測したときに, 2つの物体が同じ時刻に同じ場所にいるとすれば,座標系 \(K\) で観測しても,同じように出会うはずである.

Refereneces