構造化されたストーリーとしてのスライド

スライド作成方法論 1

Ryo Nakagami

2025年05月07日

Summary

スライド作成の基本

  • プロセス: スライド作成は「メッセージ設計」→「構成検討」→「スライド作成」の順で進める

メッセージ設計

  • 3W: 誰に(Who)、何を(What)、なぜ(Why)伝えるのかを明確化する
  • RAPフレームワーク: Research Question, Answer, Positioning Statement

ストーリー構築

  • 論理的対話: 読み手の疑問を予測し、先回りして答える構成としてスライドパッケージを設計する

スライド作成のルール

  • 1スライド1メッセージ: 主張を絞り、MMUF (Main Message UpFront) を徹底する
  • オッカムの剃刀: 必要最小限の情報に絞り、冗長性を排除する
  • メッセージと整合的な縦横軸: メッセージとスライド軸を合わせ、秩序ある情報の列挙にする

スライド作成の基本

  • スライド作成の基本

  • スライド作成実践

  • Appendix

メッセージの全体像を書き起こしてから、スライド作成にかかる

① メッセージの作成
Planning an argument

ゴール: 伝えたい内容と目的の明確化

  • メッセージ設計にあたって3Wを明確化
    • Who: 誰を対象にしているか?どのような事前知識を持っているのか?
    • Why: 相手にどう行動してほしいのか?どんな印象や判断を促したいのか?
    • What: どのような情報を伝えたいのか?
  • テーマ・問題・主張・提案など、伝達したいコアメッセージを言語化

② ストーリーの骨子の構築
Building an outline

ゴール: スライド全体の設計図の構築

  • Comprehend as they read
    • 読み手が一度最後まで読み終えてから理解できるのではなく、読んでいる途中でその内容を把握していくことが可能な構成
  • スライド全体を「読み手との論理的対話(logical dialogue)」として設計
    • メインメッセージを見た読み手の疑問を予測し、先回りして答える構成で、話の道筋を明確にする

③ スライド作成・資料化
Drafting paragraphs

ゴール: 具体的な表現・可視化・構成

  • すべてのスライドがメッセージとストーリーをサポートするように構成
  • 1スライド1メッセージ
  • MMUF(Main Message UpFront)
    • メインメッセージを先に示すと、後の詳細パートが理解しやすくなる
  • スライド内のオブジェクトを、直感的に理解しやすいように配置・整理

メッセージ作成の3つのキーポイント

① メッセージの作成

明確な主張

  • ライドの目的は、意思決定に必要な情報を分かりやすく伝え、意思決定を促すこと
  • 明確な主張(Argument)にはRAP1が整理されていることが望ましい
    • R: Research Question、「何を明らかにしたいのか?」
    • A: Answer、問いに対する答え
    • P: Positioning Statement、この主張が全体の議論の中でどういう意味を持つか

筋の通った説明の流れ

  • 単に情報を並べるのではなく、情報を整理・構造化する
  • 結論を先に示し、その根拠を段階的に説明する descend structure が効果的

結論に必要な情報だけ

  • 情報過多なスライドは、重要ポイントを埋もれさせ、判断を迷わせる
  • オッカムの剃刀: 「十分な説明が得られるなら、余計な要素を加えるべきではない」
  • 「情報を最小限に絞る」=「本質に集中する作業」であり「情報の省略」ではない

見出しと要点でストーリーを設計する

② ストーリーの骨子の構築

全体像の分割(Headingsの定義)

  • メインメッセージを、いくつかのグループ(見出し)に分ける
  • 専門家・一般読者の両方に通じる、明快な見出し配置を設計する
    • 誰にとっても自然な流れは論理の明快さを意味し、ストーリーの説得力を高める
    • 「次に何が来るのだろう?」と迷うことなく、「なるほど、次は当然この話だな」と感じられるような構成が理想

Takeaways(要点)の明確化

  • 「言いたいこと」を主語+動詞で、具体的かつ明確に表現
  • シンプルな文で表現
    • 長い文章だと記憶に残らない
  • 要点が、セクション全体の「だから何?(So what?)」という問いに明確に答えているかを確認
  • メインメッセージとの関連を連想させるような表現
    • 「XがYを引き起こすことを示している」
    • 「XがYを引き起こすという主要結果を示している」

論理的な順序配置

  • 見出しや要点は「理解しやすい順」に配置
  • 「聞き手との論理的対話」を意識
    • 話の導入・展開・結論と聞き手の疑問に先回りして答えるような流れを構築
    • 聞き手の事前知識を想定した上でのスムーズな論理構成

スライドアウトライン設計例

スライドやドキュメントを作る前に、スライド構成を「ツリー型ロジック」で描くのが有効

② ストーリーの骨子の構築

スライド構成フォーマット

horizontal_tree:
  - テーマ
    - headings1
      - key takeaways
        - paragraph 1
        - paragraph 2
    - headings2
      - key takeaways
        - paragraph 1
        - paragraph 2

スライド構成例

売上低迷の主因は既存顧客の離脱であり、リピート率改善が最優先課題である:
  - 売上の全体傾向分析
   - 売上は前年比▲12%、特に既存顧客売上が大幅減
      - 全体売上と既存/新規の比較グラフ
      - 時系列推移(過去12か月)
  - 既存顧客離脱の要因分析
    - 離脱要因は価格競争と顧客体験の低下
      - 競合比較と価格感度分析
  - リピート率改善の施策提案
    - パーソナライズ施策が有効
      - 類似顧客群へのキャンペーン効果の事例
      - 実行計画・KPI設定案

明確なスライドメッセージのルール

③ スライド作成・資料化

1スライド1メッセージ

  • 主張や要点をひとつに絞る
  • 複数の情報を詰め込まず、聞き手の理解に集中を促す
    • 複数の主張や結論が同時にあると、聞き手が混乱してしまう
  • MMUF(Main Message UpFront)

オッカムの剃刀の原則

  • 聞き手が本質に集中する構成にする
  • 背景情報・前提知識は最低限にする
  • 伝えたい内容に直接関係しない情報は思い切って省く
  • 同じ情報を複数のスライドや文で繰り返さない

メッセージと整合的な縦横軸

  • 秩序ある情報の列挙
    • 大根, 手羽先, 手羽元, ネギ, 砂糖, 黒酢
    • 骨付き鳥黒酢煮込みのための具材
      : 手羽先, 手羽元
      野菜: 大根, ネギ
      調味料: 砂糖, 黒酢
  • メッセージとスライド軸を合わせる
    • 論点別の「問い」「調査結果」を伝えるならば、縦に「論点軸」、横に「問い」と「調査結果」の比較があるべき

スライド作成実践

  • スライド作成の基本

  • スライド作成実践

  • Appendix

1スライドに複数メッセージが入ってしまっている

人件費の上昇により売上拡大にも関わらず営業利益減少

1つのスライドに2つのメッセージが含まれてしまっている

  • 売上上昇にもかかわらず営業利益が減少
  • 営業利益減少の主要因は人件費の増加

「2010年から10年間売上増大したにもかかわらず営業利益が減少」がメインメッセージのとき、 2011~2018年の数値は本筋に対して過剰な情報

  • 図と表が並列に表示されていることで、どちらに注目すべきかが不明瞭
  • 特定の行や列が強調されておらず、全体が等価に見えてしまい、何が重要情報なのかわからない

1スライド1メッセージによる改善案

1スライド1メッセージ

ここ10年で売上は19%拡大しているが、営業利益は34%の減少

売上増減率

+ 19%

コスト増減率

+ 38%

営業利益増減率

- 34%

  • このスライドでは「売上は増えているのに営業利益は減少している」という直感に反した情報を聞き手に理解してもらうことが目的
  • 直感に反した情報」はシンプルかつ明快なロジックで説明したほうが良い

オッカムの剃刀の原則による改善案

オッカムの剃刀の原則

注目すべき情報だけに絞り、判断の迷いをなくす

人件費の大幅な増加が利益率低下の主因であり、売上増分の約8割が人件費の増加によって相殺されている

前のスライドの「売上が増加しているのに営業利益が減少した」に対するfollow-up question「どのコストが特に増加したのか?」に答えることで論理的にスムーズな流れとなる

スライドに軸がなくメッセージが分かりづらい例

LNGの供給の安定供給にかかわる主な論点1

① オペレーターの長期的な方針

  • : LNGサプライヤーのネットゼロ目標とは。目標達成に向けてどのような取り組みを推進しているのか
  • 調査結果: LIOCと独立系石油会社は、2050年ネットゼロおよび石油・ガス分野の排出削減目標を定めており、カーボンニュートラルLNGの生産やメタンガスの排出量削減など、様々な取り組みを推進している

② 収益性

  • : LNGプロジェクトの今後の見通しとは。収益性を確保するうえでボトルネックは存在するのか
  • 調査結果:
    • シェールガスのコスト競争力の高まりや従来のガスへの投資減少により、今後1~3年間で見込まれるFID (最終投資決定)の70%以上が米国のプロジェクトになり、生産拠点の集中度が高まる可能性がある
    • 原材料費や人件費等の高騰により、ここ20年間、世界各地でLNGプロジェクトコストが膨れ上がっており、大きな課題となっている
    • 米国については、他の地域に比べてコスト超過が発生するケースは少ないものの、米国以外のLNGプロジェクトの多くはコスト超過に陥っている

③ LNGサプライサイド

  • : LNGインフラの潜在的なボトルネックとは何か
  • 調査結果:
    • パイプラインプロジェクトが遅延あるいは中止となった場合、シェールガスの主な供給源であるアパラチアからメキシコ湾沿岸にかけてのパイプライン輸送能力に影響が生じ、2020年代後半にLNG液化基地へのガス供給量が限定される可能性がある
  • : 今後、世界のLNG供給構成はどう変化していくのか
  • 調査結果:
    • 世界のLNG生産量に占める米国の割合は、今後12年間でほぼ倍増し、2035年には約33%に達する可能性がある
    • 現在、主要LNG輸入国は、調達先の多様化を進めており、複数の大陸にまたがる約10カ国からLNGを調達している
    • 従来のLNGプロジェクトへの投資を継続することで、調達先の多様性を確保できる

比較の困難さ

  • カテゴリ軸と(「問」「調査結果」)の2軸が同じ縦軸のため、異なる主題間での「問」や「調査結果」の比較が煩雑

視線の誘導の悪さ

  • 「オペレーターの長期的な方針」と「収益性」の各「調査結果」を比較する場合、縦に離れた位置にあるため、視線を大きく移動させる必要がある

軸ラベルの冗長性

  • 同じ縦軸に異なる意味合いのラベル(「問」/「調査結果」)が何回も出現している
  • 重複排除の原則に反している

比較のためのスライド軸の導入と重複ラベルの排除

メッセージと整合的な縦横軸

record1:
  カテゴリー: オペレーターの<br>長期的な方針
  Question: 
    - LNGサプライヤーのネットゼロ目標とは。目標達成に向けてどのような取り組みを推進しているのか
  調査結果: 
    - LIOCと独立系石油会社は、2050年ネットゼロおよび石油・ガス分野の排出削減目標を定めており、<span class="regmonkey_bold">カーボンニュートラルLNGの生産やメタンガスの排出量削減</span>など、様々な取り組みを推進している

record2:
  カテゴリー: 収益性
  Question: 
    - LNGプロジェクトの今後の見通しとは。収益性を確保するうえでボトルネックは存在するのか
  調査結果:
    - シェールガスのコスト競争力の高まりや従来のガスへの投資減少により、<span class="regmonkey_bold">今後1~3年間で見込まれるFID (最終投資決定)の70%以上が米国のプロジェクト</span>になり、生産拠点の集中度が高まる可能性がある
    - 原材料費や人件費等の高騰により、ここ20年間、世界各地でLNGプロジェクトコストが膨れ上がっており、大きな課題となっている
    - 米国については、他の地域に比べてコスト超過が発生するケースは少ないものの、米国以外のLNGプロジェクトの多くはコスト超過に陥っている

record3:
  カテゴリー: LNG<br>サプライサイド
  Question: 
    - LNGインフラの潜在的なボトルネックとは何か
  調査結果:
      - <span class="regmonkey_bold">パイプラインプロジェクトが遅延あるいは中止となった場合、シェールガスの主な供給源であるアパラチアからメキシコ湾沿岸にかけてのパイプライン輸送能力に影響が生じ、2020年代後半にLNG液化基地へのガス供給量が限定される</span>可能性がある
reocord4:
  カテゴリー: LNG<br>サプライサイド
  Question: 
    - 今後、世界のLNG供給構成はどう変化していくのか
  調査結果:
    - 世界のLNG生産量に占める米国の割合は、<span class="regmonkey_bold">今後12年間でほぼ倍増し、2035年には約33%に達する可能性がある</span>
    - 現在、主要LNG輸入国は、調達先の多様化を進めており、<span class="regmonkey_bold">複数の大陸にまたがる約10カ国からLNGを調達</span>している
    - 従来のLNGプロジェクトへの投資を継続することで、調達先の多様性を確保できる

Appendix

  • スライド作成の基本

  • スライド作成実践

  • Appendix

論文におけるHeadingsとTakeaways

Headings( 見出し )

  • 議論や情報を階層化するためのセクションタイトル
    • 「イントロ」「先行研究」「手法」「結果」「考察」「結論」
  • Headingsから関心部分にすぐアクセスできる

Takeaways( 要点 )

  • 各セクションの要点や主張を示す
  • 通常はHeadingの直後に書かれる(MMUFの原則)
    • 全文を読まずに、素早く全体の骨子・要点をつかめる

3. Data and Methodology

We combine satellite imagery with city-level land-use data to model temperature variation.

This section describes the datasets used and the modeling techniques applied to quantify urban heat island effects.

3.1 Data Sources

We utilized satellite thermal data and open geospatial datasets to quantify urban heat islands, focusing on five major cities and temporal alignment of vegetation indices with land surface temperature.

To conduct a comprehensive analysis of urban heat island (UHI) effects, we assembled a multi-source dataset ...


場面に応じてスライド作成クオリティは異なる

record1:
  MTG: ステコミ
  目的:
    - 意思決定の支援
    - 重要案件の承認
  オーディエンス:
    - クライアント経営層
    - 細かいところまでは把握していない
  ポイント:
    - 情報の簡潔性(1枚で要点を伝える)
    - ビジュアル重視(図・表・チャート)
    - 論理の一貫性と構成力
    - 誤字・フォーマットも厳しくチェックされる

record2:
  MTG: 定例会
  目的:
    - 進捗報告
    - 課題共有
    - 方向性の確認
  オーディエンス:
    - クライアント + 社内チームメンバー
    - PJ背景情報まで把握している
  ポイント:
    - 要点を絞った報告
    - タスク・KPIに対する進捗の見える化
    - 情報の網羅性を重視

record3:
  MTG: 社内MTG
  目的:
    - 知見の共有
    - よもやま相談
  オーディエンス:
    - 社内の人
    - 社内用語なり事前情報・価値観が揃っている
  ポイント:
    - ストーリー性や具体例が大切
    - 手書き風や口頭中心もOK