DSとしての語彙力

教育コンテンツ

Ryo Nakagami

2025年10月15日

「単語(word)」を知っているとは？

知識としての語彙力はForm・Meaning・Usageの３つの観点の理解力から構成される

Form

発音

単語を「耳で聞いて理解し」「口で正しく発音できる」

綴り(spelling)

単語の視覚的な形（written form）を正しく知っている

単語の構成要素

単語を構成する内部要素（語幹・接頭辞・接尾辞など）を理解している
「単語の内部構造」を理解し，派生や意味の変化を読み取れる

Meaning

語形と意味のつながり

単語の「形」と「意味」が頭の中で結びついている

概念と指示物

単語が表す抽象的な「概念」と，現実世界の「対象」との関係が整理できている
単語の意味は「言葉 ⇔ 概念 ⇔ 現実」の三者関係で成り立つ

連想 (association)

単語がもつ感情・文化・意味ネットワークを理解している

Usage

文法的機能

単語が文の中でどのような文法的役割を果たすか理解している
文中での位置（主語・動詞・目的語など）を理解している

コロケーション

自然な語の組み合わせ・共起関係を理解している

使用制約

単語を使う場面・文体・相手に応じて適切に使い分けられる

(参考) 「プログラミング言語」を知っているとは？

プログラミング言語の理解力も，Form・Meaning・Usage の3観点から理解することができる

Form

構文 (syntax)

コードの正しい「形（文法）」を理解している
例：for (let i=0; i<10; i++) の括弧・セミコロンの役割を理解している

記法 (spelling)

言語特有のキーワードや識別子を正確に書ける

構成要素 (structure)

文や式がどのような要素で構成されるかを理解している
例：関数＝宣言 + 引数 + 本体

Meaning

概念と処理の対応

言語を通して，プログラムの概念（ループ・条件分岐・関数）と実際の挙動（処理内容）を結びつけて理解している
「抽象的な概念」⇔「プログラミング」⇔「具体的な挙動（output）」の橋渡し

連想 (association)

コードから関連知識を連想できる
例：append() → 「リスト操作」, 「破壊的変更」, 「配列末尾」

Usage

文法的機能 (grammatical role)

コード要素が文の中でどんな役割を果たすかを理解している
例：変数は値の入れ物，関数は処理単位

コロケーション (共起関係)

自然なコードの組み合わせを理解している
例：if ... else，try ... except，for ... in などのペアを正しく使える

使用制約 (context constraints)

構文・関数を適切な場面で使い分けられる
例:
- 同期処理と非同期処理の文脈の違い
- global変数の慎重な利用

単語を使いこなす能力: receptive vs productive

① Receptive knowledge

使用場面: reading, listening skills
提示された情報を理解できる力
- 他者が書いたコード・文章・発話を見聞きして，文脈を踏まえて正しく理解できる能力
- 他人のコード・APIドキュメントを読んで動作を理解できる
Form → Meaning の対応を把握し，Usage は参照的に理解する段階

② Productive knowledge

使用場面: speaking, writing skills
自分の考えや意図を表現できる力(= 状況に応じた創造的応用)
- 単に意味を知っているだけでなく，文法・語感・使用制約を踏まえて「適切にアウトプットできる」能力
- 自分で関数やロジックを書き，再利用できる能力
Form・Meaning・Usage をすべて統合して能動的に使える

✅ プログラミング言語理解チェックリスト

record1:
    観点: Form
    children:
      - チェック項目: syntax
        Receptive skill:
          - コードの構文構造を見て意味を理解できる
          - 括弧やインデントの意味を理解できる
        Productive skill:
          - 正しい構文でコードを書ける
          - 構文エラーを自力で修正できる
      - チェック項目: spelling
        Receptive skill:
          - 言語特有のキーワードや識別子を見て意味を理解できる
          - 大文字・小文字・予約語の違いを認識できる
        Productive skill:
          - キーワードや識別子を正確に書ける
          - 命名規則に従って識別子を作れる

      - チェック項目: structure
        Receptive skill:
          - 文や式の構成要素を理解できる
          - 関数やクラスの構造を読み解ける
        Productive skill:
          - 再利用可能な関数を設計できる

record2:
    観点: Meaning
    children:
      - チェック項目: concept-behavior
        Receptive skill:
          - ループ・条件分岐・関数などの概念と挙動を理解できる
          - コードの意味を説明できる
        Productive skill:
          - 概念をコードに正しく落とし込める
          - 推定量→疑似コード→アルゴリズム実装の流れを実行できる
      - チェック項目: association
        Receptive skill:
          - コードから関連知識を連想できる
          - API名やメソッド名から用途を推測できる
        Productive skill:
          - 適切な関数やメソッドを選択できる
          - 挙動と整合的な命名をすることができる

record3:
    観点: Usage
    children:
      - チェック項目: grammatical role
        Receptive skill:
          - 各構文要素がどんな役割を果たすか理解できる
          - コード全体の構造を把握できる
        Productive skill:
          - 処理の意図に応じて構文を選択できる
          - 構成要素を組み合わせてクラスを構築できる

      - チェック項目: collocation
        Receptive skill:
          - よく使われる構文パターンを理解できる
          - 組み合わせの自然さを判断できる
        Productive skill:
          - 自然なコードペアを使える（例：<code>if...else</code>, <code>try...except</code>, <code>for...in</code>）

      - チェック項目: context constraints
        Receptive skill:
          - 文脈に応じた構文や関数の使用制約を理解している
          - 同期/非同期やスコープや名前空間などの制約を把握できる
        Productive skill:
          - 文脈に応じて適切な構文や関数を選択できる
          - 設計上の制約を踏まえて安全なコードを書ける

Receptive → Productive → Scalableの順番で知識を確立する

Learn-by-Thinking

Receptive Knowldgeの確立

論文やOSSライブラリーを見て理解する
理論や概念の背景を整理する
単語・構文・仕組みを頭の中でマッピングする
問題や課題の意味を解釈できるようになる

Learn-by-Doing

Productive Knowldgeの確立

実際に手を動かしてコードを書く・課題を解く
フィードバックを受けながら理解を修正する
推定量→疑似コード→実装の流れを実現する
課題解決や実務で活用可能なスキルへ昇華する

Expand-your-knowledge

Scalable Knowldgeの確立

習得した知見を整理し，関連知識と結びつける
他の課題や領域への応用方法を考える
自分の知識を言語化して共有する
他人を巻き込み，知識をスケールさせる

References

書籍情報

タイトル	Writing for Academic Purposes 英作文を卒業して英語論文を書く
著者	田地野彰，ティム・スチュワート，デビッド・ダルスキー編
発売日	2010/4/1
ISBN	978-4-89476-490-3
体裁	単行本，213ページ

この本の内容

大学・大学院生を対象とした，英語によるアカデミックライティングのガイドブック
「学術的文章の基礎理解 → 実践的執筆スキル → 執筆現場での応用」という三段構成で，アカデミックライティングの実践の仕方を解説