6 母関数
確率分布を特徴づける関数として母関数という関数があります.母関数には確率母関数,積率母関数,特性関数,キュムラント母関数という種類があります. 詳しくは後ほど説明しますが,母関数は全てのモーメントの情報を含んでいるので
- モーメントの計算が簡単になる
- 母関数が一致する2つの分布は同じものと考えることができる
という数理統計学上便利な性質を母関数は持っています.
確率母関数
Def: 確率母関数(probability generating function)
確率変数 \(X\) の標本空間を非負の整数全体 \(\mathcal{X} = \{0, 1, 2, \cdots\}\) とし, \(p(k = \Pr(X=k))\) とする. \(\vert s\vert\leq 1\) となる \(s\) に対して,
\[ G_X(s) = \mathbb E[s^x] = \sum_{k=0}^\infty s^kp(k) \]
を確率母関数という.
\(p(x)\geq 0, \sum p(k)=1\) より \(\vert s\vert \leq 1\) の範囲で \(\sum_{k=0}^\infty s^kp(k)\) の収束が保証されるので, 「\(\vert s\vert\leq 1\) となる \(s\) に対して」という条件が付きます.
▶ PGFと離散確率関数
PGFの定義より \(p(0) = G_X(0), p(1) = G_X^\prime(0), p(2) = \frac{1}{2!}G_X^{\prime\prime}(0)\) となります.一般に,
\[ p(k) = \frac{1}{k!}\frac{\mathrm{d}^k}{\mathrm{s}^k}G_X(s)\bigg|_{s=0} \]
また,\(G_X(s) = \sum_{k=0}^\infty s^kp(k)\) より,
\[ G_X(1) = 1 \]
になることも分かる.このように確率母関数が与えられれば,\(G_X(s)\) を \(k\) 回微分し,\(s=0\) と置くことで,\(p(k)\) を再現することができることから,非負整数上の確率分布とその確率母関数は1対1に対応していることがわかります.
Example 6.1 : PGFから確率関数を計算する
確率変数 \(X\) について,PGFが \(G_X(s) = \frac{s}{5}(2 + 3s^2)\) と与えられてるとします. このとき,
\[ \begin{align*} G_X(0) &= \Pr(X=0) = 0\\ G_X^\prime(0) &= \Pr(X=1) = \frac{2}{5}\\ \frac{1}{2!}G_X^{\prime\prime}(0) &= \Pr(X=2) = 0\\ \frac{1}{3!}G_X^{\prime\prime\prime}(0) &= \Pr(X=3) = \frac{3}{5}\\ G_X^{(r)}(0) &= 0 \quad\forall r\geq 4 \end{align*} \]
従って,
\[ X = \bigg\{\begin{array}{c} 1 &\text{with probability} \frac{2}{5}\\ 3 &\text{with probability} \frac{3}{5} \end{array} \]
となることがわかります
Theorem 6.1 : PGFと階乗モーメント
確率変数 \(X\) について,PGFが \(G_X(s)\) と与えられているとき,
\[ \begin{align*} &\mathbb E[X] = G_X^\prime(1)\tag{a}\\ &\mathbb E[X(X-1)\cdots(X-k)] = G_X^{(k)}(1)\tag{b} \end{align*} \]
Theorem 6.2 : 独立な確率変数の和についてのPGF
互いに独立な確率変数 \(X_1, \cdots, X_n\) について,\(Y = \sum_{i=1}^nX_i\) と定義する.このとき,
\[ G_Y(s) = \prod_{i=1}^nG_{X_i}(s) \]
Theorem 6.3
確率変数列 \(X_1, X_2, \cdots \overset{\mathrm{iid}}{\sim} F\) とし,各確率変数 \(X_i\) の確率母関数を \(G_X(s)\) で表すとする. \(\{X_i\}_{i=1}\) と互いに独立な確率変数 \(N\) を考え,新たに以下の形で確率変数 \(T_N\) を定義する:
\[ T_N = X_1 + \cdots + X_N \]
このとき,\(T_N\) についての確率母関数は
\[ G_{T_N}(s) = G_N(G_X(s)) \]
Example 6.2 : ATMの引き出し金額
とあるATMでお金を引き出す人の一日あたりの合計人数 \(N\) という確率変数を考える. ATMで各個人が引き出す金額 \(X_i\) は 互いに独立に 平均 \(\mu\), 分散 \(\sigma^2\), PGF \(G_X(s)\) の同一分布に従うとします.
このとき,一日あたりのATM引き出し金額 \(T_N = X_1 + \cdots + X_N\) について,
\[ \begin{align*} \mathbb E[T_n] &= G_N^\prime(G_X(1))\cdot G_X^\prime(1)\\ &= G_N^\prime(1) \cdot \mathbb E[X_i] \quad\because G_X(1) = 1\\ &= \mathbb E[N] \cdot \mathbb E[X_i] \end{align*} \]
と期待値を表すことができる.
📘 REMARKS
積率母関数と確率母関数について以下の関係が知られています:
\[ \begin{align*} G_X(t) &= M_X(\log(t))\\ M_X(t) &= G_X(\exp(t)) \end{align*} \]
以上より,一方が求まっていれば,それをもとにもう一方を求めることができることがわかります.